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【日記本】日記集『温燗』

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『日記集『温燗』』ものすごい愛と杉山ハウスによる共著

ものすごい愛さんと夫さん、杉山ハウスさんとスガワラさんの掛け合いが非常に面白く、勝手知ったるお家を行き来するやり取りは、なんだか懐かしさを感じました。
私もこういうやりとりを近所でできたらなと思いながら読むこの日記本は止め時が全くわからず、誰かがふらっときて、ふらっと帰る感じはやはり良さがあります。
日記本はよくあるのは一人の方が書いていくのが一般的ではありますが、お二方なので、視点や、やること、興味がガラッと変わり、その切り替わる様も楽しめる日記本だと思います。
読みやすい文庫サイズなので、3作のどれか一冊はバッグに忍ばせておきたいですね。
是非、お手元に一冊置いてみてはいかがでしょうか?

12月5日(月)
夜、ものすごい愛から既刊本の通販についてのLINEが来た。いろんな事情から負い目があって、売り上げの取り分に傾斜をつけようと提案したら「くだらんこと言っていると絶交するぞ」と怒られた。もちろんその傾斜のつけ方は僕の取り分を減らす方向ではあったが、半ば予想していた返答でもあった。彼女のこういうところが好きなんだよな。では何故わざわざ拒否されるような提案したのかと考えたら、そういう自分が好きなのではないかという結論に辿り着いた。仮に多めに受け取ってくれればそれで構わない。金には頓着せず、物事を公平に見られるという自負を抱きたいだけのオナニーなのだろう。オナニーを送りつけ、絶交するぞと怒られ、そういう彼女が好きだと言っている僕は頭がおかしいのだろうか。しっかりと否定をしておこう。僕はマゾヒズムではない。
金の話は苦手だが、金を貸すのは好きである。きっと、金を貸せる自分が好きなのだろう。

10年前、数年に一度しか会わない高校の友達から金を無心されて二十五万円貸したところ、周りからは非難轟轟であった。ただ、僕は間違いなく金が返ってくると借じていたし、事実昨年にはやっと十万円を返してもらった。金額の多寡ではなく、一部とはいえど返金されたことがうれしかった。これが、残りの十五万円を忘れさせる手口だとしたらしっかりと騙されているが、それでもいいよ。金なんてどうでもいい。
先々週、そいつの経営するスナックに行った。終電まで残り30分だけど、せっかく近くに来たのだからとメールをしてみると、歓迎してくれた。最寄駅からタクシーで向かい、久しぶりの再会を喜び合ったが、15分の滞在で千三百円支払った。ハイボールー杯五百円、チャージ料八百円。向こうも商売だから当然の原理であるのに、何故か違和感を覚えている。十五万円貸しているのに、旧知の仲なのに、タクシーで向かったのに、15分しかいないのに、一杯しか飲んでいないのに。さらに言えば金なんてどうでもいいと思っていた自分が、まだ違和感を覚えていることにも腹が立つ。そんなことを思い出した。

---版元より---

ものすごい愛と杉山ハウスによる共著。2023年4月の日記集。

季節の変わり目で生まれる卑屈さと億劫さ、それでも日々肌で感じられるあたたかさを、
北海道札幌市での春の暮らしを毎日欠かさず綴りました。日記集シリーズ『四季』の第3弾。

わたしたちの毎日を、あなたの暮らしと照らし合わせてみて。

※文庫版(A6サイズ)

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